アシダカグモ
アシダカグモ(学名:Heteropoda venatoria)も、その名前にクモとついていることからわかるように昆虫ではありません。そして、アダンソンハエトリ同様、大変に人間の役に立つ動物です。ただ、アダンソンハエトリのような人気はあまりありません。むしろ、見た瞬間逃げ出す人間が大多数というくらいの「人気のなさ」を誇っています。
アシダカグモが人間から嫌われている唯一にして最大の原因は、その体の大きさにあります。これは全く彼らの責任ではないのですが、足を広げると100mmを超えるその大きさは、見る人にとってはまさに不快であり、恐怖なのです。
また、彼らはよく人間に向かってくると言われます。追い払おうとした大型のクモが自分に向かって飛びかかってくるところを想像してみると、やはり気分がいいものではありません。古い民家などで割と多く目にするこのクモは、やはりしばしばその民家の住民によって命を落としてしまいます。
アシダカグモは、天下一品のハンターであり、人間にとってきわめて心強い仲間です。なにしろ、主食はあの素早い動きで我々を恐怖に陥れるゴキブリです。そのゴキブリを持ち前の長い足と素早い動きでたちまち捕まえてくれるのですから、非常に頼りになることは間違いありません。
さらに、一度ゴキブリを捕まえて食事中であっても、他のゴキブリの気配を感じ取るや否やすぐさま新しい標的の捕獲に向かうという性質があり、まさに生物兵器として申し分のない性能を誇っています。私が学生時代に住んでいた家では、一時期ゴキブリ対策としてアシダカグモを放し飼いしていた時期があったほどです。
加えて、彼らは巣を持ちません。常に徘徊して獲物を探します。従って糸に埃がたまって部屋を汚したり、うっかり人間が巣に顔を突っ込んで不快な思いをする、ということもありません。本来、非常に愛するべき彼らが、その外見だけでここまで嫌われてしまうのは不当に思えてなりません。
ここで、私は力一杯彼らを擁護したいと思います。彼らは非常に臆病な性格をしており、体をつかんだり何か刺激を与えたりしない限りは攻撃してくることはありません。追い払おうとしたときに彼らが人間に向かってくることがあるのは、彼らが振動で外敵や標的を探知しており、目がほとんど見えないためです。つまり、一生懸命逃げようとしているけど目が見えないので、偶然人間がいる方向に逃げてしまっただけにすぎないのです。
また、その大きな体と「クモ=毒」というイメージから、いくらおとなしくても噛まれたら危険なのではないかと思われるかもしれませんが、そんなこともありません。アシダカグモの毒はそもそも昆虫向けに発達した毒であり、タンパク質の構造が異なる脊椎動物である人間にはほとんど効果がないのです。噛まれたときに人間が受けるダメージは、牙による純粋に物理的なダメージと細菌による化膿の可能性、異物の侵入による免疫反応(つまり、傷口の腫れやしびれ)くらいです。
(ただし、効果がないといっても毒にはかわりありませんから、アレルギー反応等で思わぬ重篤な症状を示す可能性はあります。その点は注意が必要です)
今度もしアシダカグモを見かけたら、驚かさないように遠くから彼らの姿をよく見てみてください。もしかしたら、その長くのびた脚の美しさに、虜になるかもしれません。